2015年1月2日金曜日

ステッチのボレロ

世の中は光に満ち溢れている。
光があるおかげで、私たちの日常は色彩にあふれたものとなっている。
光が私たちに見せてくれるのは艶やかな色彩だけではない。
色彩と輝きの裏にある影。
光のない部分も見せてくれる。

光と影は常に表裏一体だ。
影があるから、光の強さが活きているともいえる。
だから、平面上で何かを描くとき、影を取りこむことで光を放つこともできる。

その視点を刺しゅうに取り込んだステッチがブラック・ワークだ。

影を描くことで、対象を立体的に描く。
影は、幾何学的なステッチの繰り替えしで描かれ、影の深さは糸の太さで強弱をつける。
だから、基本的には黒一色で作られることが多い。

影なのだから、黒く塗りつぶしてしまえばいいじゃないか。
そう思う人もいるだろう。

だが単に塗りつぶしてしまっては、作者の意図を表現できない。
人や動物、植物などの生き物から、建物や単なる物体。
描きたいものが有機物であろうが、無機物であろうが、
自分の中には柔らかいイメージや、この方向に描きたいという意図があるはずだ。
その作者の心情を表すのが、多様に存在するステッチだ。
長い歴史の中で、ステッチの種類は増え続けている。
きっと自分の気持ちにそったステッチが見つかるはずだ。
もし見つからなければ、自分でステッチを作ればいい。

ブラック・ワークは区限刺しゅうだ。
生地糸に左右されてしまうステッチだ。
経糸、横糸に規則的に糸を掛けるようにして刺し進める。
ある意味、実に単調なステッチの連続だ。
単調な繰り返しの中で、糸の太さや目数に変化をつけてイメージを埋め込んでいく。

緻密な幾何学模様。
そして、糸は基本的には黒一色。

決まりごとの中で制作していると、つまらないと感じることもあるだろう。
単調さゆえにストレートに表現することが難しいと思うことも多いと思う。
しかし、ステッチに現れるイメージは情熱的だ。
緻密さの蓄積と、抑制されるがゆえに、ステッチに凝縮されるエネルギーを強く反映する。

ブラック・ワークは、いわばボレロのようなステッチだと思うのだ。
だから、それに見合った芯の強い作品を作りたい。


hiroko Inagaki art work

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